東京地方裁判所 平成8年(ワ)19660号 判決 1998年10月27日
原告
株式会社富士銀行
右代表者代表取締役
甲山A夫
右訴訟代理人弁護士
今井和男
吉澤敏行
正田賢司
森原憲司
市川尚
沖隆一
右訴訟復代理人弁護士
大越徹
柴田征範
被告兼亡乙川B子訴訟承継人
丙谷C雄
被告兼亡乙川B子訴訟承継人
丙谷D郎
主文
一 被告らは、原告に対し、別紙物件目録≪省略≫記載の建物についてされた東京法務局町田出張所平成七年九月一九日受付第三〇八六二号、順位一番、原因平成三年六月二八日設定による根抵当権設定保全仮登記の本登記手続をせよ。
二 訴訟費用は、被告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
(B子及び被告丙谷C雄)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
(被告丙谷D郎)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 (金銭貸付け及び根抵当権設定契約)
原告は、丙谷E介(以下「E介」という。)に対し、平成二年一〇月一日、二億円を貸し付けた(以下「本件貸付け」という。)後、E介との間において、本件貸付けの担保として、同年一一月二〇日、E介所有の町田市<以下省略>の土地(以下「本件土地」という。)等について、根抵当権設定契約を締結し、同月二二日には、本件土地上に建築する建物(以下「本件建物」という。)を追加担保とすることを合意した(以下「本件根抵当権設定契約」という。)。
2 (E介の死亡と相続)
E介は、平成三年二月二一日、死亡し、乙川B子(以下「B子」という。)、被告丙谷C雄(以下「被告C雄」という。)及び被告丙谷D郎(以下「被告D郎」という。)がこれを相続し、本件建物について、持分各三分の一の所有権保存登記を経由した。
3 (保全仮登記)
原告は、平成七年九月一九日、本件建物について、処分禁止仮処分命令を得て、根抵当権設定保全仮登記(以下「本件保全仮登記」という。)を経由した。
4 (B子の死亡と相続)
B子は、平成九年六月一五日、死亡し、被告C雄及び被告D郎がこれを相続した。
5 (結論)
よって、原告は、被告らに対し、本件根抵当権設定契約に基づき、本件保全仮登記に基づく本登記手続を求める。
二 請求原因に対する認否
(B子及び被告D郎)
1 請求原因1(金銭貸付け及び根抵当権設定契約)は認める。
2 同2(E介の死亡と相続)は認める。ただし、本件建物の所有権保存登記は、被告D郎が原告の依頼を受けて遺産分割協議が未了のまま行ったものである。
3 同3(保全仮登記)は認める。
4 同4(B子の死亡と相続)は、B子及び被告D郎において、争うことを明らかにしない。
(被告C雄)
1 請求原因1(金銭貸付け及び根抵当権設定契約)は知らない。
2 同2(E介の死亡と相続)は認める。
3 同3(保全仮登記)は認める。
4 同4(B子の死亡と相続)は被告C雄において、争うことを明らかにしない。
三 抗弁(被告C雄)
E介は、平成元年から平成三年二月二一日までの間、重度の心筋梗塞の治療中であり、かつ、高齢のため、意思能力がなかった。
四 抗弁に対する認否
否認する。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因について
1 請求原因1(金銭貸付けと根抵当権設定契約)は、原告とB子及び被告D郎との間においては、当事者間に争いがなく、原告と被告C雄との間においては、証拠(≪証拠省略≫、証人丁沢F作)により認められる。
2 請求原因2(E介の死亡と相続)は、当事者間に争いがない。
3 請求原因3(保全仮登記)は、当事者間に争いがない。
4 請求原因4(B子の死亡と相続)は、B子、被告C雄において争うことを明らかにしないから自白したものとみなす。
二 抗弁について
被告C雄は、本件根抵当権設定契約締結当時、E介には意思能力がなかった旨主張するので、当裁判所は、次のとおり判断する。
確かに、証拠(≪証拠省略≫)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
E介(明治三四年○月○日生)は、昭和六〇年春ころ、脳硬塞で東京厚生年金病院に約二か月入院した後、昭和六三年六月末ころ、脳軟化症で同病院に入院し、昭和六三年九月一六日、脳軟化症、老人性痴呆で柳町病院に入院したが、同年一〇月一七日、前立腺肥大等でJR東京総合病院の神経内科に転院し、同年一二月二〇日、同病院を退院した。E介は、同病院に入院中は、判断に正確性を欠くこともあったが、看護婦等と普通の会話をかわすなど日常生活に特段の支障はなく、外泊もしていた。その後、E介は、近くの医院で診療を受けていたが、平成三年二月五日、突然けいれんを起こし、同月六日、多発性脳硬塞等でJR東京総合病院に入院し、同年二月二一日、心不全で死亡した。
右認定事実によれば、E介は、平成二年一一月二二日当時、多発性脳硬塞等で判断に正確性を欠き、歩行等に不自由があったものの、日常生活はそれなりに普通に送っていたものと推定される。しかし、他方、≪証拠省略≫及び証人丁沢F作の証言によれば、原告の担当者である丁沢F作が平成二年一〇月一日に金銭消費貸借契約証書(≪証拠省略≫)の借主の氏名欄にE介の署名をもらう際に、E介は、衰弱していたものの、同席した被告D郎の妻の話に反応するなど意識はしっかりしていたものと認められる。右事実に照らすと、前記事実から、本件根抵当権設定契約当時、E介が、右契約締結に必要な意思能力を欠いていたものと推認することはできない。結局のところ、本件においては、本件根抵当権設定契約当時、E介を診療していた医師等の供述を得られない以上、抗弁事実を認めるに足りる証拠がないというほかない。
三 結語
以上によれば、原告の本件請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 西口元)